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 なつのひの ごごさんじ  (高岸昇・至光社)

小さなカタツムリがおかあさんから聞いた「ふしぎなうつくしいところ」を探して、
旅をするというお話です。この「ふしぎなうつくしいところ」というのは、この世で言う「幸福」であり、
カタツムリはたった一人で野原や寂しい村を超え、その「うつくしいところ」を探し続けます。
無機質な傘の群、オオカミの仮面を付けた女の子との出会い、真っ暗な闇をひたすら孤独と
戦いながらも、歩き続けます。
途中、寝床の蜘蛛の巣の上で「おつきさま ぼくのさがしている ところは まだ とおいのですか」
という言葉に私は涙を流してしまいました・・。
カタツムリはそれでも歩いて歩いて、ある日ふかいもりに来てようやく一筋の光を見付けるのです。

「なにかが おこりそうだよ ぼくがいったら ひかりも そうだよって いってくれた」
そこからずっと真っ暗な印象だったページが突然光に満ちていくように、眩く鮮やかな印象の
ページへと変わってゆきます。カタツムリは辿り着いたのです。

「これだったんだね おかあさん」
幸福とは幸福を探すこと、
幸福とは結果ではなく、進行形であること。

カタツムリの旅はこの「ふしぎなうつくしいところ」に
到達した後も続き、
「うつくしいところ」は結果ではなく、
その後も現実と共に続く進行形である事を教えてくれます。

きっと絵本とはいえ、子供の頃に読んでいたら、
こんなに感動する事もなく、闇を知らずに居れば、
涙が出てくるような共感もなかったのかも知れません。

物語の作者でありながら、画家であった高岸氏が描かれた絵は
本当に美しくて引き込まれてしまいます。内容といい、物語といい、こんなに私に衝撃を与えた
絵本はきっとこれが最高なのだと思います。
私が生まれる前に出版されたこの絵本を、私が手にし、感動していた時には作者の高岸氏は既に
亡くなっておりました。その後、この絵本を通して、
高岸氏の奥様や教え子だった方との交流も頂きました。

この絵本を当時小学生だった妹に読ませると、カタツムリの大冒険という解釈をしていました(笑)
大人にならないと「読めなかった」筈の絵本に、大人になった私が絶版になって随分と時が
経っていたにも関わらず、奇跡の様な偶然の巡り会いで出会えた事に今本当に感謝しています。